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買戻特約付売買契約 [民法]

判例 平成18年02月07日 第三小法廷判決 平成17年(受)第282号 建物明渡請求事件

「真正な買戻特約付売買契約においては,売主は,買戻しの期間内に買主が支払った代金及び契約の費用を返還することができなければ,目的不動産を取り戻すことができなくなり,目的不動産の価額(目的不動産を適正に評価した金額)が買主が支払った代金及び契約の費用を上回る場合も,買主は,譲渡担保契約であれば認められる清算金の支払義務(最高裁昭和42年(オ)第1279号同46年3月25日第一小法廷判決・民集25巻2号208頁参照)を負わない(民法579条前段,580条,583条1項)。このような効果は,当該契約が債権担保の目的を有する場合には認めることができず,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産を何らかの債権の担保とする目的で締結された契約は,譲渡担保契約と解するのが相当である。
 そして,真正な買戻特約付売買契約であれば,売主から買主への目的不動産の占有の移転を伴うのが通常であり,民法も,これを前提に,売主が売買契約を解除した場合,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなしている(579条後段)。そうすると,買戻特約付売買契約の形式が採られていても,目的不動産の占有の移転を伴わない契約は,特段の事情のない限り,債権担保の目的で締結されたものと推認され,その性質は譲渡担保契約と解するのが相当である。」

買戻特約付売買契約の形式を採った契約が締結された場合に、それを債権を担保するための譲渡担保とみるのか、契約後には債権が残らない売買の一種とみるのかについては、もっぱら当事者の意思解釈によるものとされていた。ただ、譲渡担保の場合には精算義務が生じるのに対し、売買とみる場合には精算義務が生じないことや経済実態としては担保目的であることが殆どであると考えられることから、当事者の意思としては原則、譲渡担保とみるべきである、という見解が多かったものと思われる。これに対しては、占有の移転の有無によって譲渡担保と売買を区別すべきという見解が有力に唱えられており(三藤、近江)、本判例は、今回、この有力説を採用することを明らかにしたものである。
経済実態としては占有を移転する買戻特約付売買契約は殆どないものと思われるから、結局は原則、譲渡担保として考えることになるが、たとえば、買戻特約を付した売買契約を締結し、売主が占有を続けるが、売買契約と同時に当該不動産を目的とする賃貸借契約を締結し、以後、売主が買主に対して賃料を支払う場合はどうだろうか。
この場合は、売主に債権担保の意思があるとはいえず、譲渡担保の意思を推認できない「特段の事情」があるということになるだろうと思われる。


間接強制決定 [民事執行法]

判例 平成17年12月09日 第二小法廷決定 平成17年(許)第18号
要旨: 不作為を目的とする債務の強制執行として間接強制決定をするには,債権者において,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証すれば足り,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証する必要はない

不作為債務に関して、事前に間接強制決定をなしうるか否かについては、古くから学説上争いがあり、最近の民事執行法改正によっても問題が残されたままであった。
比較的有力な見解は、不作為義務に違反するおそれが明白である場合には間接強制決定をなしうるとしていた。しかし、本判例は、間接強制決定に基づいて金銭執行を行うには執行文付与手続が必要であり、ここで不作為義務違反の立証を要するから債務者の保護に欠けるところはないとの理由で「不作為義務に違反するおそれ」があれば足り、それが明白であることを要しないとして上記有力見解を明確に否定している。
「違反のおそれ」がどのような場合を指すのかについては、今後の実務の積み重ねを見守るほかないが、不作為義務違反をほのめかす債務者の言動があれば足りるということになるのだろうか。


更正登記の限界 [不動産登記法]

判例 平成17年12月15日 第一小法廷判決 土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件
要旨:A名義の不動産につきB,Yが順次相続したことを原因として直接Yに対して所有権移転登記がされている場合に,Aの共同相続人であるXは,Yが上記不動産につき共有持分権を有しているとしても,上記登記の全部抹消を求めることができる

 本判例は理由においてこう述べている。「更正登記は,錯誤又は遺漏のため登記と実体関係の間に原始的な不一致がある場合に,その不一致を解消させるべく既存登記の内容の一部を訂正補充する目的をもってされる登記であり,更正の前後を通じて登記としての同一性がある場合に限り認められるものである(最高裁平成11年(オ)第773号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号239頁参照)。
 前記事実関係によれば,原判決が判示する更正登記手続は,登記名義人を被上告人とする本件登記を,①登記名義人を被上告人が含まれないAの相続人とする登記と,②登記名義人をBの相続人とする登記に更正するというものである。しかし,この方法によると,上記①の登記は本件登記と登記名義人が異なることになるし,更正によって登記の個数が増えることにもなるから,本件登記と更正後の登記とは同一性を欠くものといわざるを得ない。したがって,上記更正登記手続をすることはできないというべきである。」

 更正登記は、更正の前後を通して登記としての同一性が認められる場合でなければならないというのが判例学説のほぼ一致して説くところである。(幾代:不動産登記法4版186頁など)
 そこでは、登記名義人の一部についてだけ錯誤や遺漏があった場合、たとえば甲の単独所有の登記を甲乙の共有に更正する場合、甲乙だけの共有登記を甲乙丙の共有に更正する場合などは更正登記が可能とされる一方、登記名義人を甲とすべきところを乙と記載した場合は更正登記は認められないとされていた。(幾代前掲191頁)
 このような基準からすれば、本判例の説示は予想されたものといえようか。


「履行がないこと」の証明責任 [民事訴訟法]

 履行遅滞による損害賠償請求の発生要件のうち、債権者に1)履行期の定めがあること2)履行期が経過したこと、の主張責任・証明責任だけを負わせ、3)履行期に履行がないことの主張責任・証明責任については反対事実である3-1)履行期に履行の提供をしたこと、の主張責任・証明責任を債務者に負わせる、との見解には解決困難な難点がある。
 上記1)2)だけを請求原因として記載した訴状が提出され、口頭弁論期日に答弁書を提出しないまま被告が欠席した場合には、条文上は必要とされている3)の要件の主張が全くなされないまま、履行遅滞による損害賠償請求権の発生が認められることになる。
 この難点を解決する方法として主張責任と証明責任が分離する場合があることを認めることが考えられる。3)履行がないことの主張責任は債権者が負い、3-1)履行の提供をしたことの証明責任は債務者が負うと考えるのである。
 このように考えると「履行の提供があったかどうか真偽不明である=履行の提供がなかったかどうか真偽不明である」という状態になった場合、履行の提供はなかったことに擬制されるから、3)の要件が擬制されることになる。これは主張責任を残し、証明責任だけが転換されているのに他ならないが、このように考えたからといって不都合はない。

 参考文献:「要件事実論と民法学の対話」など多数
 
 

 


「正当事由」の証明責任 [民事訴訟法]

 借地借家法の「正当事由」の証明責任は常にその存在を主張する賃貸人にあるのであって、「根拠となる事実の証明責任は正当事由の存在を主張する者に、障害となる事実の証明責任は正当事由の存在を争う者に分配される」と考えるのは誤りである。
 「正当事由」の存在を判断するためには、当事者双方の事情を確定して総合的に判断する必要があるが、当事者双方の事情を残らず確定しなければ判断出来ないということではない。正当事由の根拠となる事実A、B、Cと障害となる事実D、Eがある場合、たとえ障害事実D、Eの存在が認定されたとしても根拠事実Aだけで「正当事由」が認められる場合が想定出来る。
 この場合、根拠事実B、Cについて真偽不明は問題とならず、障害事実D,Eの認定は「正当事由」を要件とする法規の不適用を招来しない。
 ここで誤りの原因となっているのは、「正当事由」という観念的な法律要件ではなく「正当事由」を基礎づける具体的事実について証明責任を分配しようとすることである。

 参考文献:松本博之「証明責任の分配」
 


買ったけど読んでない本

1 「対岸の彼女」 角田光代
  話題性だけで買った。
2 「語り女たち」 北村薫
  北村薫「スキップ」(新潮文庫)は大傑作で大好きだけど、これはなんか読めない。
3 「偶然の祝福」 小川洋子
  これも小川洋子「博士の愛した数式」があまりによかったので同じ作者ということで買ったが、途  中でストップしたまま。


最近読んだ本

1 「椿山課長の7日間」 浅田次郎
  一気に読ませてホロリとさせる。小説の醍醐味を感じさせてくれる本。
2 「健全な肉体に狂気は宿る」 内田樹 春日武彦
  悪くないんだけど春日先生のほんわか加減が自分にはちょっと。。。。同じ対談でも内田樹先生  と名越康文先生の対談の方が刺激的。
3 「生きるなんて」 丸山健二
  まじめに説教してくれる本。自分に喝を入れたいときには好適。

 


我妻「民法講義」

 我妻「民法講義」の事務管理・不当利得の部分を持っていなかったので買っておこうと思い、本屋で探したが、かなり大きな書店でも書棚に並んでいない。大阪地裁の地下にある書店にも書棚には並んでいなかった。もちろん、注文すればあるのだろうが、我妻「民法講義」を探すのに苦労するとは思わなかったので少々驚いた。我妻「民法講義」だけでなく、兼子「民事訴訟法体系」など、古いけれど学説の源流を知るために必要な本が手に入りにくいときがある。古本屋も最近はどんどん少なくなっている。重要な本は今のうちに買い占めておこうかと思う。


継続的供給契約 [手控え]

 継続的供給契約(実務上は取引基本契約などと呼ばれる)の更新拒絶あるいは解約については判例上、正当事由が必要とされる場合があるが、契約に期間が明確に定めてあったり、予告期間を明確に定めた解約申入条項がある場合になお正当事由が必要とされる理論的根拠はあいまいである。
 そのような期間満了あるいは解約によって契約が終了してしまうリスクを勘案しながら設備投資を行うべき、という価値判断もあるはずであり、自ら契約期間内に回収できないほど大きな設備投資をしておきながら、そのことを相手方も認識しているからといって更新拒絶や解約を受け入れない、という主張は納得しがたいように思える。
 


民事執行法181条に定める法定文書の性質 [民事執行法]

平成17年11月11日 第二小法廷決定 平成17年(許)第22号 担保不動産競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件

「法181条1項柱書きは,「不動産担保権の実行は,次に掲げる文書が提出されたときに限り,開始する。」と規定し,法182条は,「不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては,債務者又は不動産の所有者(中略)は,担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。」と規定している。以上の各規定によれば,法は,担保権実行の申立ての要件としては,換価権の原因である担保権の存在を証明するものとして定める法定文書の提出を要求する一方,法定文書の提出さえあれば,担保権の存在について実体判断をすることなく,競売手続の開始を決定することとし,担保権の不存在,消滅等の実体上の事由は,債務者又は不動産所有者の側からの指摘を待って,執行抗告等の手続で審理判断するという構成を採っているものと解される。
 抗告人は,本件申立てにおいて,法181条1項3号の「担保権の登記(中略)のされている登記簿の謄本」として本件登記事項証明書を提出しているところ,本件登記事項証明書には抗告人を根抵当権者とする本件根抵当権登記が記載されているのであるから,本件登記事項証明書は同号所定の法定文書に当たるというべきである。
 なお,本件登記事項証明書には本件所有権移転登記の記載もあるが,その登記原因は「譲渡担保の売買」であり,譲渡担保権を取得したというだけでは本件不動産の所有権が確定的に抗告人に移転しているということはできない。したがって,本件所有権移転登記があるからといって,本件根抵当権が混同により消滅したということもできないし,本件登記事項証明書が法定文書に当たらないものということもできない」

 根抵当権者が不動産競売を申し立てようとしたところ、根抵当権者が譲渡担保権者(登記簿上は譲渡担保を原因とした所有権移転登記が経由されている)でもあったことから、申立が却下されたのに対し、執行抗告が申し立てられた事件である。
 本判決は、法定文書が提出された以上は担保権の存在に関する実体判断に踏み込まずに開始決定を行ったうえで、担保権の存否については債務者が執行異議ないし執行抗告で争うべきものと解している。
 しかし、後の執行異議ないし執行抗告において担保権の不存在を理由に開始決定が取り消されるのは、開始決定において担保権の存在に関する判断が内包されていることが前提になっているからだという指摘(中野「民事執行法」新訂4版331頁)が重要である。
 本判決が「なお、・・・・」として担保権の存否に関する実体判断に踏み込んでいるのは、実体判断を全く排除して形式的判断に徹することもまた出来ないことを示したものではないだろうか。
 法定文書に関しては、抵当証券に関連した多数の判例もある。後日、詳しく検討するつもりである。
 


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