SSブログ

試用 [労働法]

 試用期間中であり、かつ、採用から14日以内であれば解雇予告は必要ない。(21条4号)
 試用期間中であっても14日を超えて雇用している場合は解雇予告が必要。(21条但書)
 試用期間かどうかは、原則として就業規則・労働契約による。
 試用の法的性質は、解約権留保付労働契約である。
 試用期間中の留保解約権の行使は、通常の解雇より広い範囲で認められるが、留保解約権の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される。
 より具体的には「企業が採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることが出来ず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、その者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合」である。例えば、入社選考の際の調査、質問に対して事実の秘匿や虚偽申告がなされていることが判明した場合など。

 参考文献:厚生労働省労働基準局編「労働基準法」 菅野「労働法」


要件事実論と民法学との対話

「要件事実論と民法学との対話」(商事法務)を読んでいる。まだ全部は読んでいないが、民法学者の方々が要件事実論と無理やり議論を噛み合わそうとしている感じである。要件事実論というのは司法研修所という特殊かつ狭い世界で生み出された密教なのであり、議論が噛み合うはずがないと言うのは言いすぎだろうか。
 


採用内定の法的性質 [労働法]

 採用内定は「効力発生の始期を採用通知に明示された日とする労働契約の成立」(最判昭和55年5月30日)である。
 それゆえ、効力発生前の内定期間中には就労義務がなく、業務命令として研修を強制することはできない。(東京地裁平成17年1月28日)また、就業規則の適用もない。但し、「効力発生の始期」ではなく、「就労の始期」と考える場合には、就業規則のうち就労を前提にしない部分の適用はありうることになる。(学説上争いあるが、適用肯定説が有力か)
 また、効力発生前は、使用者側に解約権が留保されているものと考えられるが、それは無制限なものではなく、「採用内定当時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実であつて、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。」(最判昭和54年7月20日)
 形式的には、採用内定通知書あるいは誓約書に記載されている採用内定取消事由が生じた場合や学生が卒業できなかった場合、ということになるが、上記判例による制限があり、記載されている採用内定取消事由に該当するように思われる場合でも、その内容程度が重大なもので従業員としての不適格性が判明するものでなければならない。
 解約権行使(内定取消)について解雇予告は不要である。理由は法21条との均衡。

 参考文献:NBL820号47頁以下  菅野「労働法」7版123頁以下


蔵書の整理

 蔵書の整理をしている。蔵書といってもたいした数ではないが、学生時代の懐かしい本が出てくると作業の手がとまる。幾代「不法行為」や高木「担保物件法」木内「手形小切手法」などは当時受けた感銘を思い起こさずにはいられない。古い本は思い切って処分するという方針で整理を始めたがなかなか方針どおりに処分できないでいる。


供給に対する受領拒否 [判例]

H17. 9.16 大阪地方裁判所 業務委託契約上の地位確認請求事件

原告との間で肉まん供給業務委託契約を締結していた被告が,同契約を解約する旨の意思表示をし,原告からの肉まんの受領を拒否したことについて,同契約の解約には正当な事由が必要があり,本件では正当な事由は認められないとして,被告の債務不履行責任を認めた事例

いわゆる継続的供給契約(実務上は「取引基本契約」などの名称が多いか)が契約されている場合に一方的かつ突然の解除が可能かどうかについては多数の判例の集積がある。本件もそのような事案のひとつであるけれど、この判例が「契約の実現に一定の資本の投下が必要で,継続されることを前提に当該契約が締結された場合,当事者はその契約から投下した資本を回収することを期待しているから,このような場合には,一方当事者の解約申入れによって契約を終了させるのは妥当ではなく,」と述べて、投下資本の回収に対する期待を保護することを正面から認めている点は注目すべきである。次の問題は、そのような期待が契約の相手方にも認識されていたかどうか、という点ではないかと思われる。


履行遅滞の損害賠償

履行遅滞の場合の損害賠償は、遅延賠償と(契約解除したうえでの)履行に代わる賠償ということになっている。履行が遅れたけれども、とにもかくにも履行がなされ、履行の内容に問題がないという場合、賠償は遅れたことによって生じた損害に限られる。でも、遅れたことによる損害ってなんだろうか。金銭債権の場合は明確だけれど(民法419条1項)、例えば請負工事が遅滞した場合の損害というのはどのようなものなのか。自宅建物のリフォームを注文した施主が工事期間中、賃貸マンションに仮住まいしていたが、工事が遅れたために余計な賃料がかかってしまったような場合、などは損害賠償請求が可能と考えられるが、そのような損害がない限りは当然だが損害賠償請求できない。「遅れても何も請求できない」場合がある、ということなのだが、いつも、いまひとつ納得がいかないでいる。


執行力と法人格否認の法理 [民事執行法]

判例 平成17年07月15日 第二小法廷判決 平成16年(受)第1611号 第三者異議事件

「第三者異議の訴えは,債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく,執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的物について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものである。そうすると,第三者異議の訴えについて,法人格否認の法理の適用を排除すべき理由はなく,原告の法人格が執行債務者に対する強制執行を回避するために濫用されている場合には,原告は,執行債務者と別個の法人格であることを主張して強制執行の不許を求めることは許されないというべきである。
(中略)所論引用の前掲最高裁昭和53年9月14日第一小法廷判決は,本件と事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。」

第三者異議訴訟における法人格否認の法理を適用を認めた最高裁判例である。
執行力拡張について法人格否認の法理が適用されるか否かについては、引用されている最高裁昭和53年9月14日判決(以下、53年判決という)がこれを否定したものとされていた。本件判例は「事案を異にする」としているが、どこが違うのか。
53年判決の事案は、第一審で敗訴した被告会社の関係者が、債務支払を事実上免れるようと、控訴審係属中に新会社を設立して、旧会社の資産と営業の殆ど全部を新会社に引き継いだため、原告が勝訴確定判決につき新会社に対して執行文付与の訴えを提起したというものである。執行文付与の訴えの場合には適用が否定され、第三者異議の訴えでは適用が認められるというのはなぜなのか。
ひとつ考えられるのは、執行文付与の訴えの性質である。執行文付与の訴えにおける審理の対象は、承継執行文付与のための承継の事実といった執行文付与要件の存否に限られ、実体上の請求権の異議事由を主張することは許されないとされている。(最高裁昭和52年11月24日判決)他方で第三者異議の訴えでは、「所有権その他目的物の譲渡又は引渡しを妨げる権利」の存否が審理されるのであって、まさに実体上の権利に関する審理がなされることになる。
このような手続の違いからすれば、最高裁は実体上の権利の有無が審理される手続においてのみ、そのような手続が保障されている場合にのみ「法人格否認の法理」の適用を認めているのではないかと考えられる。しかし、そうだとすれば、それは「執行力の拡張だから」適用がないのではなく、端的に「執行文付与の訴えだから」適用がない、ということではないだろうか。


新人弁護士

 今週から裁判所で新人らしき弁護士をちらほらみかけるようになった。
 自分にもそんな頃があったなあと思う。右も左もわからず、裁判所に行っても所在なげ、自信なげにしていた頃。
 あの頃の初心を忘れずに頑張りたい。


相続後の賃料 [民法]

相続後の賃料の取り扱いに関する最高裁判例が出たようです。

平成17年09月08日 第一小法廷判決 平成16年(受)第1222号 預託金返還請求事件

「遺産は,相続人が数人あるときは,相続開始から遺産分割までの間,共同相続人の共有に属するものであるから,この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は,遺産とは別個の財産というべきであって,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は,相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが,各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は,後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。」

 判例の事案は、遺産分割審判(の抗告審決定)によって遺産分割の内容が確定した事案であったために相続後賃料の清算方法に関して紛争が発生したようですが、当事者の協議によって遺産分割協議が成立する場合には、遺産分割協議書に相続後賃料の清算方法を定める条項を入れておくことで紛争を回避することが出来るはずです。
 ただし、遺産分割協議が成立するまでに時間がかかり、その間の賃料を成立より先に請求された場合には問題が生じる可能性があります。「協議成立までは賃料を請求しない」旨の暫定合意が必要になるかもしれません。


合格発表

 今日は司法試験論文合格発表の日だった、
 当事務所でバイトをしてくれているK君も発表を見に行ったが駄目だったようだ。
 司法試験というのは過酷な試験である。
 いかに実力があっても、そのときの体調や出題内容といった微妙な要素で合否が分かれてしまう。だからといって全部を運でかたづけてしまうことも出来ない。
 人生を左右する試験。今日は全国で歓喜と悲嘆が交錯したに違いない。
 


この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。