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賃料増減額請求と確認の利益 [民事訴訟法]

 形成権である賃料増減額請求権が行使されると客観的に「相当」な賃料にまで増額あるいは減額がなされるが、当事者間において「相当」額についての認識が共通にならない場合には、賃料額確認と差額精算を求める訴訟(以下、賃料額確認訴訟という)が提起されることになる。
 しかし、この賃料額確認訴訟に確認の利益を認めることが出来るのはなぜだろうか。
 賃料増減額請求権が行使された時点での賃料額の確認を求めるものであるから、過去の権利関係の確認を求めるものであり、かつ、その判決は紛争の抜本的解決をもたらさないのである。
 例えば、平成19年1月1日に賃料増減額請求権を行使したうえ、同日時点での賃料額の確認を求める訴えを提起し、3年後の平成22年1月1日に弁論が終結し、同年3月1日に判決がなされたとする。
 この場合、原告は、判決の直後に再び賃料増減額請求権を行使することが可能である。
 なぜなら、賃料額確認訴訟は、賃料増減額請求権を行使した時点での賃料額の確認とそこから弁論終結時までの賃料の差額精算をおこなうだけであり、弁論終結時の「相当」賃料額を確認するわけではないからである。
 上記の例でいえば、最初の賃料増減額請求権行使から既に3年経過し、地価等が上昇(あるいは下落)していることを理由として再度の賃料増減額請求権を行使することが可能である。
 判決直後の賃料増減額請求を抑止することが出来ず、紛争は継続することになる。
 それにも関わらず確認の利益があるとするのは、おそらく、弁論終結時までの賃料の差額精算を命じることで、一時的ではあるにせよ、当事者間の関係を公平な位置に戻すからであろう。

 もともとそのような制度だと言ってしまえばそれまでであるが、紛争解決の制度としてはいささか問題があるように思われる。
 立法論かもしれないが、形成訴訟としての賃料増減額訴訟を認めることはできないだろうか。


相殺の抗弁と二重起訴 [民事訴訟法]

平成18年04月14日最高裁判決

本件判例は、本訴及び反訴が係属中に、反訴請求債権を自働債権とし、本訴請求債権を受働債権として相殺の抗弁を主張するのは二重起訴禁止に抵触しないとして、次のように述べる。
「この場合においては、反訴原告において異なる意思表示をしない限り、反訴は、反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴に変更されることになるものと解するのが相当」である。

結論に異論はないが、あまりに技巧的な説明と感じるのは私だけであろうか。
本訴と反訴は同一の手続で判断されるために矛盾した判断が生じる虞がない、というのが実質的な理由のはずであり、率直にそれだけを述べれば良かったはずである。


「履行がないこと」の証明責任 [民事訴訟法]

 履行遅滞による損害賠償請求の発生要件のうち、債権者に1)履行期の定めがあること2)履行期が経過したこと、の主張責任・証明責任だけを負わせ、3)履行期に履行がないことの主張責任・証明責任については反対事実である3-1)履行期に履行の提供をしたこと、の主張責任・証明責任を債務者に負わせる、との見解には解決困難な難点がある。
 上記1)2)だけを請求原因として記載した訴状が提出され、口頭弁論期日に答弁書を提出しないまま被告が欠席した場合には、条文上は必要とされている3)の要件の主張が全くなされないまま、履行遅滞による損害賠償請求権の発生が認められることになる。
 この難点を解決する方法として主張責任と証明責任が分離する場合があることを認めることが考えられる。3)履行がないことの主張責任は債権者が負い、3-1)履行の提供をしたことの証明責任は債務者が負うと考えるのである。
 このように考えると「履行の提供があったかどうか真偽不明である=履行の提供がなかったかどうか真偽不明である」という状態になった場合、履行の提供はなかったことに擬制されるから、3)の要件が擬制されることになる。これは主張責任を残し、証明責任だけが転換されているのに他ならないが、このように考えたからといって不都合はない。

 参考文献:「要件事実論と民法学の対話」など多数
 
 

 


「正当事由」の証明責任 [民事訴訟法]

 借地借家法の「正当事由」の証明責任は常にその存在を主張する賃貸人にあるのであって、「根拠となる事実の証明責任は正当事由の存在を主張する者に、障害となる事実の証明責任は正当事由の存在を争う者に分配される」と考えるのは誤りである。
 「正当事由」の存在を判断するためには、当事者双方の事情を確定して総合的に判断する必要があるが、当事者双方の事情を残らず確定しなければ判断出来ないということではない。正当事由の根拠となる事実A、B、Cと障害となる事実D、Eがある場合、たとえ障害事実D、Eの存在が認定されたとしても根拠事実Aだけで「正当事由」が認められる場合が想定出来る。
 この場合、根拠事実B、Cについて真偽不明は問題とならず、障害事実D,Eの認定は「正当事由」を要件とする法規の不適用を招来しない。
 ここで誤りの原因となっているのは、「正当事由」という観念的な法律要件ではなく「正当事由」を基礎づける具体的事実について証明責任を分配しようとすることである。

 参考文献:松本博之「証明責任の分配」
 


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