民事執行法181条に定める法定文書の性質 [民事執行法]
平成17年11月11日 第二小法廷決定 平成17年(許)第22号 担保不動産競売申立て却下決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件
「法181条1項柱書きは,「不動産担保権の実行は,次に掲げる文書が提出されたときに限り,開始する。」と規定し,法182条は,「不動産担保権の実行の開始決定に対する執行抗告又は執行異議の申立てにおいては,債務者又は不動産の所有者(中略)は,担保権の不存在又は消滅を理由とすることができる。」と規定している。以上の各規定によれば,法は,担保権実行の申立ての要件としては,換価権の原因である担保権の存在を証明するものとして定める法定文書の提出を要求する一方,法定文書の提出さえあれば,担保権の存在について実体判断をすることなく,競売手続の開始を決定することとし,担保権の不存在,消滅等の実体上の事由は,債務者又は不動産所有者の側からの指摘を待って,執行抗告等の手続で審理判断するという構成を採っているものと解される。
抗告人は,本件申立てにおいて,法181条1項3号の「担保権の登記(中略)のされている登記簿の謄本」として本件登記事項証明書を提出しているところ,本件登記事項証明書には抗告人を根抵当権者とする本件根抵当権登記が記載されているのであるから,本件登記事項証明書は同号所定の法定文書に当たるというべきである。
なお,本件登記事項証明書には本件所有権移転登記の記載もあるが,その登記原因は「譲渡担保の売買」であり,譲渡担保権を取得したというだけでは本件不動産の所有権が確定的に抗告人に移転しているということはできない。したがって,本件所有権移転登記があるからといって,本件根抵当権が混同により消滅したということもできないし,本件登記事項証明書が法定文書に当たらないものということもできない」
根抵当権者が不動産競売を申し立てようとしたところ、根抵当権者が譲渡担保権者(登記簿上は譲渡担保を原因とした所有権移転登記が経由されている)でもあったことから、申立が却下されたのに対し、執行抗告が申し立てられた事件である。
本判決は、法定文書が提出された以上は担保権の存在に関する実体判断に踏み込まずに開始決定を行ったうえで、担保権の存否については債務者が執行異議ないし執行抗告で争うべきものと解している。
しかし、後の執行異議ないし執行抗告において担保権の不存在を理由に開始決定が取り消されるのは、開始決定において担保権の存在に関する判断が内包されていることが前提になっているからだという指摘(中野「民事執行法」新訂4版331頁)が重要である。
本判決が「なお、・・・・」として担保権の存否に関する実体判断に踏み込んでいるのは、実体判断を全く排除して形式的判断に徹することもまた出来ないことを示したものではないだろうか。
法定文書に関しては、抵当証券に関連した多数の判例もある。後日、詳しく検討するつもりである。
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